「大腸がんのリスクを減らす!予防から検査まで徹底ガイド」

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「大腸がんのリスクを減らす!予防から検査まで徹底ガイド」

はじめに:大腸がんの現状と検診の重要性

 大腸がんは、日本国内で増加傾向にあるがんの一つです。令和4年の人口動態統計では、男性の大腸がんの死亡率はがん全体の中で第2位、女性の大腸がんの死亡率は第1位となっており、特に高齢化が進むにつれて増加傾向にあります。多くの方にとってがんは命に関わる病気であり、大腸がんは進行するまで症状が現れにくいという特徴があります。症状が出た時にはすでに進行しているケースも多く、早期発見・早期治療が何よりも大切です。

 天王寺やすえ消化器内科・内視鏡クリニックでは、がんの早期発見と予防を目指して、胃カメラや大腸カメラを使用した内視鏡検査を推進しています。胃や大腸の状態を直接観察する内視鏡検査は、他の方法では見逃されやすい初期の異常をしっかりと捉えることができるため、腸内の健康を守るために非常に重要な検査方法です。

第1章:大腸がんとは?その特徴とリスク要因

大腸がんの発生メカニズムと進行の仕組み

 大腸がんは、大腸内の粘膜細胞が異常に増えることで発生します。通常、私たちの体では細胞が古くなると新しい細胞に置き換わりますが、何かしらのきっかけでこの仕組みが乱れると、細胞が増えすぎてしまい腫瘍(しこり)となります。これには、遺伝的要因や、生活習慣(赤肉や加工肉の多量摂取、食物繊維不足、喫煙・飲酒など)が関係しているとされています。初期の段階では、大腸の中に小さなポリープと呼ばれる突起物ができます。ポリープは必ずしもがんではなく、最初は良性(問題のない状態)です。一部のポリープは時間が経つとがん化することがあります。がんになったポリープは、さらに大腸の周りの組織に広がっていきます。発見が遅れるとがんが筋肉層や外壁に広がり、さらには血液やリンパ液を通じて肝臓や肺などの他の臓器にも転移する可能性があります。

 

早期発見による予防の可能性

 早期段階で大腸カメラ検査によりポリープを発見し除去することで、大腸がんのリスクを大幅に軽減できます。これは1993年にWinawer SJらによって報告された論文に基づいており、内視鏡でポリープを切除することで、大腸がんの発生率が約7690%減少したと報告されています。また、1980年から1990年にかけて実施された全米ポリープ研究では(National Polyp Study)、大腸ポリープの切除を受けた患者さんは、一般の人と比べて大腸がんによる死亡リスクが53%低下したことが示されております。このことから、大腸カメラ検査によるポリープ切除が、大腸がんによる死亡予防において非常に有効であることが確認されました。大腸カメラ検査では腸内を直接観察できるため、非常に小さな病変や初期のがんも見逃さず、早期治療が可能です。また、内視鏡で切除することで、外科手術の必要がなくなり、身体的負担も軽減されます。大腸がんの発症率が増加するのは50歳代ですが、ほとんどの大腸がんは放置された良性腫瘍の大腸ポリープからゆっくり時間をかけて発生するため、40歳を超えた時点で大腸カメラ検査を受けると効果的です。

 

遺伝的リスク~リンチ症候群~

 大腸がんには遺伝的なリスクが関係している場合があり、家族に大腸がん患者がいると、そのリスクはさらに高まります。大腸がんの約510%は遺伝性とされており、特にリンチ症候群と呼ばれる遺伝的要因を持つ方には、早期の内視鏡検査が推奨されます。

 リンチ症候群は、遺伝的な体質によりがんが発症しやすい状態を指し、特に大腸がんや子宮内膜がんのリスクが高いとされています。他にも、胃がんや膵臓がん、胆道がん、卵巣がん、脳腫瘍など複数のがんが発症する可能性があります。遺伝的な特徴により、がんの発症時期や種類は人によって異なります。このリンチ症候群は、MLH1MSH2などの特定の遺伝子に変異があることで発症します。これらの遺伝子は、細胞分裂時にDNAの誤りを修正する「ミスマッチ修復」に関与していますが、リンチ症候群の方ではこの修復が正常に機能しないため、DNAの誤りが蓄積し、がんが発症しやすくなります。

 主な特徴としては、以下が挙げられます。

  1. 50歳未満でがんを発症しやすい
  2. 大腸がんのリスクが高く、複数のがんが発生しやすい
  3. 特定のがんに対する累積リスクが高く、予防や早期発見が重要

 リンチ症候群の診断には、家族歴や腫瘍のDNA検査、さらに遺伝子検査で確定診断が行われます。がん予防のためには、20代から定期的な大腸カメラや胃カメラの検査が推奨され、発見されたポリープを取り除くことでがんの予防が期待できます。遺伝的リスクが高いリンチ症候群では、定期的な検査や健康的な生活習慣で発症リスクを下げ、早期発見も可能です。ご家族にがんの既往がある方、または子宮内膜がん、胃がん、卵巣がん、膵がん、胆道がん、腎がん、脳腫瘍などを患ったことのある方は、30代でも一度大腸カメラ検査を受けてみることをお勧めします。

 

生活習慣の影響

 赤肉・加工肉:赤肉(牛肉、豚肉など)や加工肉(ハム、ソーセージなど)を多く摂取する人は、大腸がんのリスクが高まると言われています。これらは、調理過程で発生する発がん性物質や、防腐剤などの添加物が原因とされています。

アルコール:アルコールの摂取量が多いほど、大腸がんのリスクが高まることがわかっています。特に日本人にはアルコールを分解する酵素が少ない方も多いため、適量を心がけることが大切です。

 喫煙:タバコに含まれる有害物質は、血流を通して腸にも影響を与えることが知られています。長期間の喫煙習慣は、がんのリスクを大きく高めるため、禁煙が推奨されます。

運動不足:運動不足は大腸がんのリスクを高めることが知られています。適度な運動は腸の働きを促進し、便通をよくすることで腸内に発がん性物質が留まる時間を短くします。ウォーキングやジョギング、筋力トレーニングなどを定期的に行うことが効果的です。

 予防的な内視鏡検査を行うことで、発症前にリスクを管理することが可能です。

第2章:大腸がん検診の方法とその目的

 大腸がんは進行するまで自覚症状がほとんどなく、症状が出た時には既に進行していることが多いため、早期発見が非常に重要です。大腸がん検診には、主に便潜血検査と内視鏡検査が用いられますが、それぞれ異なる目的と利点を持ち、早期発見において大きな役割を果たしています。

 

便潜血検査の役割

 便潜血検査は、便に含まれる微量の血液を検出することで、腸内での出血を早期に見つけ出す簡易な検査です。日常生活において負担なく実施できるため、初期段階のスクリーニング検査として広く利用されています。便潜血陽性の場合、約3%の確率で大腸がんが見つかるとされています。早期がんであっても約60%、進行がんであれば約90%の確率で陽性となることが分かっていますが、陽性だからといって必ずしもがんがあるわけではありません。炎症や良性のポリープなど、他の要因で陽性になる場合もあります。便潜血陽性の結果が出た場合、大腸カメラ検査を受けることが推奨されます。大腸カメラでは、大腸全体や一部の小腸(回腸末端)まで詳しく観察でき、がんやポリープの早期発見が可能です。小さなポリープであれば、その場で切除することも可能で、日帰りで治療が完了することもあります。

 

大腸カメラを使った内視鏡検査の精度と重要性

 大腸カメラ検査は、腸内を直接観察できるため最も精密な検査方法で、特に大腸がんの早期発見と予防において非常に重要です。大腸カメラは、大腸全体を直接観察するため、がんやポリープといった病変の有無を高い精度で確認できます。これにより、目視だけでは発見が難しい小さなポリープや早期のがんも見逃すことなく診断できる可能性が高まります。しかし、大腸カメラも完璧な検査ではありません。5mm以下の小さなポリープは見逃される可能性がやや高く、見逃し率は約2030%とされています。一方、10mm以上の大きなポリープやがんの見逃し率は非常に低く、1%以下とされていますが、見逃しの可能性が完全には排除されていません。また、右側大腸(盲腸や上行結腸)の病変は特に見逃しやすく、見逃し率が高い傾向があります。これは、右側結腸の構造的な複雑さや病変の形態が関係しています。内視鏡検査は、検査者の経験や技術によって精度に大きな差が生じるため、注意が必要です。

 

精度の高い大腸カメラとは?

 大腸カメラ検査の精度を評価する重要な指標の一つに、ADRAdenoma Detection Rate:腺腫発見率)があります。ADRは、大腸カメラ検査で腺腫(前がん性ポリープ)を発見する割合を示しており、検査の質や見逃し率を判断する指標として使われています。米国のガイドラインでは、ADRの目標値として男性患者では30%以上、女性患者では25%以上が推奨されています。一般的に、ADR25%以上であれば、その内視鏡医は大腸内視鏡検査の精度が高いと評価されます。

 なぜADRが重要か?ADRの高い医師が担当すると低い医師に比べて検査後の大腸がんのリスクと検査後の大腸がんによる死亡のリスクが有意に低いとされる研究結果がでているためです。研究によれば、1%のADRの増加が大腸がんの発生リスクが3%減少することが示されています。そのため、ADRが基準値を超えていることが、内視鏡医や施設の検査の質を担保する目安となります。

 天王寺やすえ消化器内科・内視鏡クリニックでは、すべての検査をがん専門病院で豊富な経験を積んだ院長が担当いたします。院長のADR5070%と非常に高く、特に発見が難しいとされる平坦型や陥凹型の病変を見つけることを得意としています。当院では、苦痛の少ない快適な検査を提供するだけでなく、重要な病変を見逃さない精度の高い検査を心がけております。大腸カメラの受診先でお悩みの方は、どうぞお気軽にご相談ください。

 

CTコロノグラフィーの位置づけ

 CTコロノグラフィー(CT Colonography)は、CTスキャンを使用して大腸の内部を3D画像で確認する検査法です。内視鏡を挿入せずに大腸の状態を把握できるため、侵襲性が低く、特に内視鏡検査に抵抗がある方やリスクのある患者様にとって有力な選択肢とされています。検査には事前の腸管洗浄が必要ですが、大腸がんや大きなポリープを検出することが可能です。ただし、微小なポリープや平らなポリープの検出率は内視鏡検査に比べて劣る場合があります。CTコロノグラフィーは無症状の方のスクリーニングに使われることもありますが、内視鏡検査と異なり病変が発見されてもその場で治療ができないため、精密検査が必要な場合には大腸内視鏡が推奨されます。また、全身麻酔や内視鏡挿入にリスクがある方、例えば心肺機能に不安のある高齢の方などには、非侵襲的なCTコロノグラフィーが適している場合があります。内視鏡挿入が困難な際にはCTコロノグラフィーが腸内の観察手段として有効ですが、病変の発見率や即時の生検・治療が可能な点で内視鏡検査が優れているため、可能であれば最初から内視鏡検査をお勧めいたします。

第3章:内視鏡検査での早期発見が治療に与える影響

 内視鏡検査を用いた大腸がんやポリープの早期発見は、治療の選択肢や治療成績に大きな影響を与えます。早期の段階で病変が見つかることで、がんの進行を防ぐだけでなく、患者様への負担も大幅に軽減できます。特に、大腸がんは初期段階では自覚症状がほとんどないため、定期的な内視鏡検査による早期発見が鍵となります。

 

早期発見による内視鏡治療の利点

・低侵襲の治療:内視鏡治療では、がんが粘膜層に留まっている早期の段階であれば、外科手術を避け、内視鏡を用いた治療で十分対応できる場合が多く、身体への負担が少ないことが利点です。

・高い治癒率:早期に発見されることで、がんが周囲の組織やリンパ節に浸潤する前に治療が可能になります。内視鏡治療による切除のみで治癒するケースが多く、根治が期待できます。

・回復が早い:内視鏡治療は、開腹手術と比べて体への侵襲が少なく、術後の回復が早いため、入院期間も短く、日常生活への早い復帰が可能です。例えば、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)などの高度な内視鏡技術を用いれば、体への負担を最小限に抑えつつ病変を確実に除去できます。

・治療費の負担軽減:手術が不要な場合、治療費の負担も抑えられ、患者様にとって経済的なメリットもあります。

 早期発見による内視鏡治療は、がんの進行を防ぐだけでなく、患者様の生活の質や治療の効率にも大きく貢献します。定期的な内視鏡検査によって早期に病変を発見し、適切なタイミングで治療を行うことが非常に重要です。

 

内視鏡治療の種類

 消化管にできたがんの内視鏡治療には、内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)、内視鏡的粘膜切除術(EMR)、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の3つの方法があります。

 

・内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)

 キノコのように盛り上がり、根元に茎やくびれがあるポリープやがんに対して行う治療法です。内視鏡の先端から出す輪状のワイヤ(スネア)を病変の根元にかけ、締め付けてから高周波の電流を流し、焼き切ります。最近では、がんになる前の小さな病変(10mm未満)には、高周波電流を使わずに、ワイヤだけで病変を切り取る「コールドポリペクトミー」と呼ばれる方法も用いられています。コールドポリペクトミーは切除中や切除後の出血リスクや穿孔(腸に穴があくこと)などの偶発症のリスクが極めて少なく、患者への負担が少ないとされており、当院でも積極的に行っている治療法です。

 

・内視鏡的粘膜切除術(EMR

 茎やくびれがなく、平らな形をしたがんに適した治療法です。まず、がんの下に生理食塩水などを注入してがんを浮かせ、その下を持ち上げます。次に、浮き上がった部分にスネアをかけ、徐々に締めて高周波電流で焼き切ります。切除の際には、がんが残らないように周囲の健康な部分も少し含めて取り除きます。

 

・内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD

 がんが大きかったり(20mm以上)複雑な形をしていたりする場合に行う治療法で、がんの周囲の粘膜を慎重に切り開き、下の層から剥がし取る方法です。最初にがんの下に生理食塩水やヒアルロン酸ナトリウムなどを注入し、がんを持ち上げます。次に高周波ナイフを使ってがんの周りの粘膜を切り、がんを根元から剥がし取ります。

第4章:若年性大腸がんと内視鏡検査の重要性

 50歳未満で発症する大腸がんは「若年性大腸がん」と呼ばれ、50歳以上で発症する大腸がんとは異なる特徴があり、特に世界中で注目されています。研究によれば、50歳未満で発症する大腸がんのうち約5%は遺伝性、約1%は炎症性腸疾患に関連するがんですが、残りの90%以上は家族歴に関係しない「散発性」とされています。近年、この若年性大腸がんが増加傾向にあり、発見時には進行がんであることが多いため、早期発見と治療が特に重要です。

 

若年性大腸がんの特徴

・進行が早い

 若年性大腸がんは進行が速く、早い段階でリンパ節や他の臓器に広がることが多いです。そのため、見つかった時にはすでにがんが進行していることが多くあります。

・発見時に進行がんであることが多い

 初期のうちは症状が出にくく、発見が遅れやすいことから、診断された時にはがんが進んでしまっていることが多く、治療が難しい場合もあります。

・自覚症状が少ない

 若年性大腸がんは初期段階ではほとんど症状がないことが多く、腹痛や血便などの症状が出る頃にはがんが進行していることが多いです。

・遺伝的要因や家族歴が関係することが多い

 若年性大腸がんは、リンチ症候群や家族性大腸腺腫症(FAP)などの遺伝性疾患と関係が深く、家族に大腸がんの方がいる場合、リスクが高まることがあります。

・右側の大腸に多く発生する傾向

 右側の大腸(盲腸や上行結腸)にがんができることが多いですが、この部分は症状が出にくく、発見が遅れる原因のひとつになっています。

・ポリープや腫瘍の形が独特

 若年性大腸がんの病変は平らだったり(平坦型)、へこんでいる形(陥凹型)で見つけにくいことが多く、豊富な経験がないと見逃されやすい場合があります。

 

大腸カメラ検査の重要性

 若年性大腸がんのリスクがある人や、がんの家族歴がある場合には、定期的な大腸カメラ検査を受けることが非常に重要です。

・早期発見ができる

 大腸カメラ検査は大腸の中を直接観察するため、ポリープやがんを早期段階で見つけることができます。ただし、前述のように若年性大腸がんは、平らでへこんだ形など見つけにくい場合が多く、さらに10mm以下の小さな病変でも悪性の場合があります。したがって、経験豊富で高い技術を持つ医師による検査が必要です。

・その場で治療が可能

 大腸カメラ検査中にポリープが見つかった場合、その場で切除が可能です。早期のがんであれば、内視鏡での治療のみで完治することも多く、手術を避けられるため、体への負担も軽減されます。

・症状がなくても検査が大切

 若年性大腸がんは初期段階で症状が出にくいことが多いため、血便や腹痛がない場合でも、家族歴がある方や不安がある方は積極的に検査を受けることをお勧めします。

 

 当院の院長は、前職のがん研有明病院に勤務していた際、20代前半で腸閉塞を伴う進行大腸がんを患った症例を複数経験しています。非常に稀ではありますが、20代でもがんが発生することがあります。

 もしご家族にがんの既往歴がある方や、過去に大腸がん以外のがんを患った方は、たとえ20代や30代であっても一度大腸の検査を受けておくことをお勧めします。当院の院長は、遺伝性大腸がんの経過観察においても豊富な内視鏡経験を持ち、これまでに小さな陥凹性の病変を多く発見し、内視鏡治療によって早期に対応してまいりました。不安をお感じの方は、どうぞお気軽に当院までご相談ください。

第5章:大腸がん検診の推奨頻度と内視鏡検査の必要性

年齢・リスクに応じた検診スケジュール

・対象年齢と受診間隔

 40歳から、1年に1度の定期的な検診をお勧めします。大腸がんで亡くなるリスクを減らす検診の利益と、偽陰性・偽陽性、過剰診断や偶発症などの不利益を考慮し、対象年齢と受診間隔を守って、以下の便潜血検査を定期的に受けることが重要です。

・検診項目

便潜血検査(2日法)

 2日分の便を採取して、便に含まれる血液の有無を確認する検査です。大腸がんやポリープがあると大腸内で出血する場合があり、その血液を微量であっても検出できます(通常は目に見えません)。

・大腸がん検診の判定後の流れと精密検査

〈検診の判定〉

(1) がんの疑いなし(精密検査不要)と判定された場合

 検診で「がんの疑いなし」と判定された場合は、次回(1年後)の検診を受けてください。もし血便、腹痛、便の形や排便の頻度の変化などが見られた場合は、次回の検診を待たずに医療機関を受診しましょう。

(2) がんの疑いあり(要精密検査)と判定された場合

 検診で「がんの疑いあり(要精密検査)」と判定された場合は、必ず精密検査を受けてください。大腸がんは常に出血しているとは限らないため、1日分の便潜血検査が陽性であれば精密検査が必要です。なお、再度便潜血検査を受けることは精密検査の代わりにはなりません。

 症状がなくても、自己判断で「次回の検診まで待つ」「症状がないから大丈夫」とせず、精密検査を受けることが大切です。痔がある場合でも、痔による出血なのか、大腸がんやポリープによる出血なのかは精密検査をしないと判断できません。自己判断せず、必ず精密検査を受けましょう。

 

・最近の大腸カメラ検査で異常がなかったが、その後の便潜血検査で要精密検査となった場合

 人によっては大腸に病変がなくても、便潜血検査で陽性になることがあります。直近の大腸カメラ検査で異常がなく、その後の便潜血検査で陽性となった場合に再度精密検査を受ける必要があるかは、現在、国としての方針が定まっていません。精密検査を受けるべきか迷った場合は、前回の大腸カメラ検査を担当した医師に相談することをお勧めします。

 

大腸カメラ検査の受診のタイミング

 大腸カメラ検査は、以下のような症状やリスクがある方に適用されます。

便潜血検査で陽性: 健康診断などで便に血が混じっている場合

血便がある: 排便時に血が混じっていることが見られる場合

便通異常: 便秘や下痢が続くなど、普段と違う便の変化がある場合

貧血: 原因不明の貧血が見られる場合

腹痛: 繰り返し腹痛がある場合

体重減少やお腹のしこり: 急激な体重減少やお腹にしこりが感じられる場合

また、がん家族歴(特に50歳未満での大腸がんや家族に複数の大腸がん患者がいる場合)がある方は、遺伝性のリスクが考えられるため、大腸カメラ検査を早めに受けることが望まれます。

 

健康診断(スクリーニング)としての大腸カメラ検査

 通常、健康診断で大腸カメラ検査が行われるのは、症状がない方で特定のリスクがある場合です。例えば、「加工肉や赤身肉の摂取が多い」「飲酒量が多い」「肥満である」などの生活習慣リスクや、家族に大腸がんがある方がこれに該当します。また、50歳以上の方は大腸カメラ検査を含む検診が推奨されています。

 

検診の対象年齢と年齢に応じた配慮

 日本では、対策型検診(公的ながん検診)は40歳以上が推奨されていますが、海外では50歳以上となっていることが多いです。しかし、近年アメリカなどでは若年層の大腸がんが増加していることから、検診開始年齢を50歳以下に下げることも検討されています。また、75歳以上の方には、検診のリスクと効果を慎重に検討することが求められています。

  高齢者向けには侵襲が少ないCT検査やカプセル内視鏡検査も選択肢として考えられていますが、CTでは放射線被曝のリスク、カプセル内視鏡では多量の下剤が必要といった課題があります。さらに、新しい便中DNA検査やリキッドバイオプシーも検討されていますが、まだ十分な証拠が揃っていないため、通常の検診には含まれていません。

 

S状結腸内視鏡検査の役割

 S状結腸内視鏡検査は、食事制限や下剤内服を必要とせず、大腸の肛門側約1/3程度(直腸〜S状結腸)を簡便に観察する検査です。大腸がんの60~70%は直腸からS状結腸に多発することに加え、直腸がんは進行すると将来的に人工肛門が必要になるリスクがあるため、この領域の検査は大腸全体の中でも特に重要です。死亡率を低下させる効果が認められていますが、大腸全体を観察するわけではありません。そのため、完全な検査が必要な場合は大腸全体の内視鏡検査が推奨されます。

 

S状結腸内視鏡検査と便潜血検査の併用による大腸がん検診の効果

 S状結腸内視鏡検査と免疫便潜血検査(2日分)の併用は、大腸がん検査の精度を高める効果があるとされています。これらを組み合わせることで、全ての大腸がんに対する感度(見逃しにくさ)が91%、特異度(誤診の少なさ)が83%になります。これは、S状結腸内視鏡検査や便潜血検査を単独で行う場合よりも、検出力がそれぞれ約1020%高まるとされています。

 また、ノルウェーの研究によると、1回のS状結腸内視鏡検査と便潜血検査を組み合わせた場合、大腸がんによる死亡リスクが38%減少し、その効果が少なくとも11年間持続することがわかっています。日本でも、これらの検査を併用した場合、大腸がん全体で57%、特に直腸やS状結腸がんで69%、その他の深部大腸がんで52%の死亡リスクが減少することが確認されています。

 日本では、健康診断の一環としてS状結腸内視鏡検査と便潜血検査の組み合わせを取り入れている施設もありますが、地域の公的な大腸がん検診としては導入されているケースが少ないのが現状です。S状結腸内視鏡検査は、全大腸内視鏡検査と比べて準備が簡単で、検査時間が短く、より安全に行えるため、今後は公的な検診の選択肢としても導入される可能性があります。

 天王寺やすえ消化器内科・内視鏡クリニックでも人間ドックのオプションとして、本来であれば全大腸内視鏡検査が望ましいのですが、どうしても前日からの食事制限や当日の下剤服用が難しい方の代替案として、簡便でありながらある程度の大腸がんの死亡リスクの低減効果が見込めるS状結腸内視鏡検査+便潜血検査をご用意しております。

※このオプションでは大腸ポリープの同日切除は行うことができません。大腸ポリープが見つかった場合は、あらためて全大腸内視鏡検査を受けていただく必要があります。

第6章:大腸がんの一次予防

 大腸がんを予防するために、まずは生活習慣を見直すことが大切です。


生活習慣の改善がカギ

 以下のような生活習慣が、大腸がん予防に効果的だとされています:

  • お酒を控えめにする
    飲みすぎは大腸がんのリスクを高めるので、適量を守ることが重要です。

  • 適度な運動を心がける
    運動には大腸がんの発生を抑える効果があると確実に認められています。ウォーキングや軽いジョギングなど、日常的な運動を取り入れましょう。

  • 適正な体重を保つ
    肥満は大腸がんのリスクを高めるため、健康的な体重を維持することが重要です。

  • 赤身肉や加工肉の摂取を控える
    牛肉や豚肉といった赤身肉や、ハムやソーセージなどの加工肉を食べ過ぎると、大腸がんのリスクが上がるとされています。

  • 食物繊維やカルシウムを積極的に摂る
    野菜や果物に多く含まれる食物繊維、牛乳やヨーグルトなどに含まれるカルシウムは、大腸がんを予防する可能性があるとされています。

  • タバコを吸わない
    喫煙は特に直腸がんのリスクを高めることが知られているため、禁煙を心がけましょう。


研究で明らかになったリスクと予防効果

  • リスクを高める生活習慣
    加工肉や赤身肉の過剰摂取、過度な飲酒、肥満、さらには高身長も大腸がんのリスクを高める可能性があるとされています(※高身長についてはまだ研究が不十分です)。

  • 運動の効果
    運動は確実に大腸がんを防ぐ効果があるとされています。日常生活に運動を取り入れることで、予防につながります。

  • 赤身肉の注意点と健康食品の効果
    赤身肉はリスクを高める可能性がありますが、食物繊維や全粒穀物、乳製品、カルシウムには抑制効果が期待されています。


薬による予防への期待

 生活習慣の改善に加え、薬による予防も注目されています。

  • アスピリンの効果
     アスピリン(痛み止めや血液をさらさらにする薬)には、大腸ポリープやがんの発生を抑える可能性があるという報告が海外から出ています。日本でも同様の効果が確認されつつあります。

  • 課題と研究状況
     ただし、高齢者でアスピリンを服用するとがん死亡率が上がるという報告もあり、慎重な検討が必要です。現在、日本ではアスピリンが大腸がんや腫瘍にどのように効果を持つのかを調べる大規模な試験(J-CAPP Study II)が進行中です。この研究の結果が期待されています。


まとめ

 大腸がんの予防には、「お酒を控えめに」「運動を習慣化」「体重を適正に保つ」といった生活習慣の見直しが基本です。加えて、加工肉や赤身肉の摂取を控え、食物繊維やカルシウムを積極的に摂ることが効果的です。さらに、薬による予防法も研究が進んでおり、将来的には生活習慣の改善と組み合わせた予防法が確立される可能性があります。自分の体と向き合い、健康的な生活を心がけることで、大腸がんのリスクを大きく減らすことができるでしょう。

第7章:日々のセルフチェックと早期発見への取り組み

セルフチェックで便の変化に気づく重要性

 日常生活の中で自分の体の変化に気づくことは、大腸がんなどの病気を早期に発見するためにとても重要です。特に「便の変化」に気を配ることで、病気の初期サインを見逃さずに済む可能性が高まります。例えば、便の色が急に黒くなったり、血が混じっている、便が細くなったり、下痢や便秘が続くなど、いつもと違う変化があれば注意が必要です。また、便の形や頻度の変化も大事な指標です。大腸がんやポリープは初期症状が出にくいことが多いため、体調に異変がなくても、便の変化を定期的にセルフチェックすることで、早めに異常に気づきやすくなります。

 セルフチェックを行うことで早期発見に近づけ、治療の負担も軽減される可能性が高まります。日常の中で自身の体のサインに敏感になることが、健康を守るための第一歩です。

まとめ:内視鏡検査の重要性と健康管理のすすめ

 内視鏡検査は、大腸がんの早期発見において非常に重要な検査です。天王寺やすえ消化器内科・内視鏡クリニックでは、最新の内視鏡機器を用い、患者さんが安心して快適に受けられる検査を提供しています。腸の健康を維持するためには、日々のセルフチェックとともに、内視鏡検査による腸内の状態確認が推奨されます。特に40歳を過ぎて一度も大腸カメラ検査を受けたことがない方は、腸の現状を確認するためにも一度検査を受けることをお勧めします。

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